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The Carpenter's Miracle (TV) 大工の起こした奇蹟

カナダ映画 (2013)

ライアン・グランサム(Ryan Grantham)が、重要な脇役を演じる「奇蹟」をテーマにしたTV映画。深刻な場面はどこにもなく、台詞の英語は平易で、気楽に楽しめる。救世主イエスの再来かと思わせる大工のジョシュア〔聖書流に言えばヨシュア〕が、一旦は溺死したルーク少年を生き返らせるところから始まり、それが奇蹟なのか、単なる医学上の「稀な偶然」なのかについて、マスコミ報道の「発言捏造」の是非も含めて考えさせる。ただ、最後に、奇蹟は本物で、ジョシュアが真の「意識しない救世主」であることが分かって終わるシーンは、ハッピーエンドすぎる。分からないままの方がよかったかも。

ジョシュアが釣りをしていると、子供たちの騒ぐ声がする。駆けつけると、少年が折れた枝に挟まれて水中に沈んでいたので、飛び込んで救助する。しかし、心肺蘇生法を試みても、ぐったりしたままだ。やがて救急車が到着し、少年は病院に搬送させるが、死亡が確認される。警察から連絡を受けた少年の母は、病院で息子の死亡を知らされ、涙にくれる。そして、死体に面会に行く時、助けようとしてくれたジョシュアにも一緒に来てもらう。悲しい別れをした後、ジョシュアが少年の肩に触れ、「ああ神様、この子を生かすこともできたでしょうに」と言うと、少年は胸に入っていた水を吐き出し、生き返る。それを見た医者は、奇蹟だと驚く。このニュースは人口9000人の小さなコミュニティにたちまち広がり、ジョシュアを救世主の再来だとみなす風潮まで出てくる。それに目をつけた全国版ニュース番組のディレクターが有名なレポーターを送り込み番組制作に利用しようとする。レポーターは、報道番組の枠を逸脱し、ジョシュアに「救世主願望」があるのかと訊いて激怒させ、その怒った部分だけを編集して面白可笑しい冷やかし番組にしてしまう。その結果、ジョシュアは地元紙から「救世主から、のけ者に」と書かれる存在に。こうした顛末に平行して、命を救われた母とジョシュアの間では、感謝の念が恋に発展し、そこにライアンが演じる息子のルークがいい形で絡む。実際、これほど模範的に良い子は、映画の中でもなかなかお目にかかれない。

ライアン・グランサムはカナダの売れっ子の子役だが、このサイトで紹介するのは3本。『Barricade(バリケード)』(2012)、『Becoming Redwood(レッドウッドらしく生きること)』(2012)〔紹介済み〕と、この作品だ。3本の中では一番年上で、声変わりしているが、一番可愛くて子供らしい。残念なのは、大人の俳優はクローズアップされるのに、ライアンは 死体の場面を除き、いつも小さくしか映されないこと。因みに、『Barricade(バリケード)』では、ライアンが氷の浮かんだバスタブに沈められるシーンがあるが、その1点では、この映画と似ている。
  


あらすじ

映画は、頭から水浸しになった男性が、水中から救い出した少年を抱き上げていているところから始まる(1枚目の写真)。男は、近くにいた少年たちに、「助けを呼んでこい! 急げ! 俺のベストに携帯が入ってる。911にかけろ!」と叫ぶ。「ここ、圏外だよ」。「幹線道路まで出ろ。そこなら入る!」。「何分、溺れてた?」。「わかんない。2、3分かな」。「分かった、行け! 走るんだ!」。3人の子供は必死で走る。男は少年を桟橋の上に降ろし、蘇生措置を試みるが全く反応がない(2枚目の写真)。男は心臓マッサージと人工呼吸を必死にくり返す。一方の子供たち、走りながら何度も911にトライするが通じない。道路に近付き、ようやく911につながる。
  
  

どうにもならない状態に男がパニックを起こしかけた時、救急車のサイレンが聞こえてくる。男は、少年を抱き上げると、道路めがけて必死に走る。途中で、様子を見に来た少年が、「こっちに向かってるよ!」と叫ぶ。パトカーに先導された救急車が到着し、救急隊員が駆け寄る。男は、「CPR(心肺蘇生法)をやってみたが、呼吸が戻らない」と報告する。少年は車輪付き担架に乗せられて救急車に運ばれる(1枚目の写真)。この時点で、男の名前がジョシュアだと分かる。ジョシュアは毛布をかけようとする警官に〔びしょ濡れなので〕、「俺はいい、何とかあの子を助けてくれ」と言い、一緒にいた子供たちも、「頑張れルーク!」「神様、助けて!」「お願い、生きてて!」と声をかける。溺れた少年の名前はルークだ。担架が救急車に入れられる。そして、ジョシュアを乗せて病院に向かう。さっそく救急隊員が鼓動をチェックするが心臓は停止したまま(2枚目の写真)。隊員は、電気ショックで何度も蘇生を試みるが、うまくいかない。
  
  

ルークの母に警察から電話が入り、事故に遭ったので病院に来て欲しいと言われる。町で唯一の病院に駆けつけた母親に、電話で話した警官が寄ってきて、「事故がありました。お話があります」と話しかける。「ルークがどうかしたの?」。「クインさん、お一人でお話ししたいことが」。そして、別室に連れて行かれる。ジョシュアも、近くでその光景を見ている。そして、別室からは、母親の悲痛な叫び声が聞こえてくる。「そんな!」。部屋から出てきた母親は、ひたすら泣いている。ルークの溺死を知らされたのだ。警官は、「誰かにお宅まで送らせます」と言うが、母は、「息子に会わせて」とすがるように頼む。「こちらですべて手配しますから」。「お願い、会わせて!」。警官から打診された女医は当然のことと了承する。警官は、母からジョシュアのことを訊かれ、「溺れているのを助けた人です」と紹介する。ジョシュア:「手を尽くしたのですが。本当にお気の毒です」。母は、泣きながら、「ありがとう」と感謝する。遺体の安置してある部屋に案内される時、母は、ジョシュアにも、「一緒に来て下さい」と声をかける。女医が、遺体にかけられた布をめくり、ルークの顔だけ見せる。母は、両手で顔をさすり、額にキスをすると、肩に手を置いて泣く(1枚目の写真)。そして、感情を抑えきれずに、泣き叫ぶと、ルークの上半身を抱きしめる(2枚目の写真、矢印は離れて見守るジョシュア)。警官がなだめて止めさせ、部屋から連れ出そうとする。入れ替わりにジョシュアはルークに近付いていき、左肩に手を触れ、「ああ神様、この子を生かすこともできたでしょうに〔I wish to God you could have lived, kid.〕〔普通は “I wish to God” は「頼むから」のように意訳するが、ここでは、敢えて直訳している〕」と声をかける(3枚目の写真、矢印は肩に置かれたジョシュアの手)。
  
  
  

全員が部屋を出て行きかけると、ルークが咳をして上半身を起こし、胸に入っていた水を吐き出す。驚いて見つめる女医。母やジョシュアも何事かと振り向く(1枚目の写真)。ルークは口から水を垂らしながら(2枚目の写真)、苦しそうに胸を押える。「どうなってるの? ここはどこ?」。母は、喜びに天にも昇る気持ちでルークに近付いて行くと、「坊や」と言って泣きながら顔や体を手で触り、息子が生きていることを実感する(3枚目の写真)。「無事だったのね」。そして、強く抱きしめる。
  
  
  

警官:「どうなってるんだ?」。女医:「分からないわ。あの人がこの子の肩に手を置いたら、生き返ったの」。警官は「そうなのか?」とジョシュアに訊く(1枚目の写真)。ジョシュア:「俺は、何もしてない」。「何かしたに違いない。でなきゃ、生き返らない」。ルークは、「何が起きたの?」と母に訊く(2枚目の写真)。警官:「あの子に 何て言ったんだ?」。ジョシュア:「ただ、生きてて欲しかったって言っただけだ」。女医は、「違う。『神様』って言葉、はっきり聞こえたわ」と言う。ジョシュア:「そうかも知れないが、覚えてない」。警官:「俺は16年、この仕事をしてきて、いろんな変わったものを見てきたが、死人が生き返るのを見たなんて初めただ」(3枚目の写真)。ルークは、この時、自分が死んでいたことを初めて認識した。母は、「息子を救って下さってありがとう」とジョシュアに言うが、ジョシュアは、「正直言って、俺は何もしてない」と否定する。「ありがとう」。「何もしてないって。ホントに」。女医は、「違う、あなたが したのよジョシュ、あの子を生き返らせたの。見てたもの。奇跡よ」〔この先、場面によって、奇跡と奇蹟を使い分ける〕
  
  
  

ミルウォーキーのTV局が、さっそくニュースとして流している。「今日は、ウィスコンシン州の絵のように美しいベサニーから中継でお知らせします。一人の少年が危うく命を落とすところでした。その少年、ルーク・クインは1時間以上 生体反応がなく、ベサニー記念病院の医師により死亡が確認されました。少年の死が9時47分に宣告された45分後…」「…事故は、ベサニー郊外のフライマン湖で起きました。少年は落下した木の枝に巻き込まれ、数分間水中に閉じ込められました…」。そして、インタビューに切り替わる。母は、「つまり、その、奇跡だと思います。他に言いようがありません。奇跡です」。そのニュースを聞いていた全国版ニュース番組のディレクターは、いいネタだと思い、人気レポーターにベサニーまで行ってインタビューするよう命じる。番組の方は、「…謙虚なヒーロー、途方もない状況に置かれたごく普通の男性でした。ケイト・パーソンがライブでお送りしました」で終わる(1枚目の写真)。レポーターは3人にお礼を言い、今夜 放送すると伝えて去って行く。ルークが、「あんなチャンネル、見たことない」と母に言うと(2枚目の写真)、「別に構わないでしょ」と言う。ジョシュアが、「じゃあ、俺はそろそろ失礼するよ」と言うと、3人で一緒に歩きながら、母は、「また、お会いしたいわ」と言い、さらに、「せめて夕食を作らせて、それしか私にはできないの」と強く希望する。「ありがとう。いつにします?」。「今夜では?」。こうして、ジョシュアは夕方7時にルークの家を訪ねることになった。ジョシュアが来ることが決まり、母子は嬉しそうに車に向かう(3枚目の写真)。ウィスコンシン州には、ベサニー(Bethany)という町はない。この町の名前は、恐らく、ヨハネによる福音書に出てくるベタニヤにあやかったものであろう〔Bethanyの発音はベタニーに近い〕。『ヨハネによる福音書』の11章には、イエスがベタニヤにいた時、そこに住むラザロを生き返らせる話がある。また、原題の「大工」だが、イエスは若い頃に大工をしていたとされる。イエスと大工、ベタニヤとベタニー。関連性は非常に強い。
  
  
  

ジョシュアは、ルークの家に着くと、ごく気軽に食事の準備を手伝う。料理の載った皿を 一度に3つ持ってテーブルまで運び、「いい匂いだな」と言うと、ルークが「ママの定番なんだ」と応える。ジョシュアがテーブルを離れる時、置いた皿の1つに体が触れ、ポテトごと床に落ちて割れてしまう。母はすぐ、笑顔で、「気にしないで」とサポート。「申し訳ない。こんなにきれいな皿を」。「ただの皿よ。私だって一杯割ってるから」。ルークは「もう一度、奇跡で直したら?」と冗談を言って母に諌められる。「やめなさい。古いお皿なのよ」。ルーク:「骨董品だよ」(1枚目の写真)。ジョシュアは、その一言で、また動転する。そして、「償わして欲しい」と言い、母は、「次の夕食は、どこかに連れて行って」と言い出す(2枚目の写真)。彼女はシングルマザー、ジョシュアは独身なので、夕食に呼んだのは感謝だけではなく、付き合いたいとの思いがあったのかも。その意味では、ルークの言葉は、事態を発展させる いいきっかけになった。次の夕食は「明日」。鉄は熱いうちに打て、だ。食事を始めようとすると、先ほど録画したインタビューがTVに映る。そして番組の最後に、教会のステンドグラスを背景にしたジョシュアの顔を出し、頭の上にCGで光輪を描く。天使のように。ジョシュアは、恥ずかしくて顔を隠す。それを見た母は、「食べましょ」と言ってTVを消す。食卓についたジョシュアは、「どうかしてる。どんな顔して町に行きゃいいんだ」と笑う。ルーク:「引っ越さないと」(3枚目の写真)。「そうすべきだな。光輪も持って」。ジョシュアの気さくさが分かる。ジョシュアを見る母の目も、すっかり惹き付けられている。このマスコミの光輪により、奇跡は奇蹟になった。
  
  
  

次の3枚の写真は、その後に影響を与える「類似」の場面をまとめたもの。ジョシュアが明朝、大工道具を持って町に1軒しかないバー兼飲食店を訪れると、「やあ来たな! 奇蹟の男だ!」と拍手が沸く。「新たな救世主って呼んだ方がいいか?」。ジョシュア:「みんな、もうやめてくれ〔give me a break〕」。「昨日の光輪は凄かったな」「バカみたいに見えたぞ」。ジョシュア:「殴られたいか?」。ウェイターをやっているルーサーが、コーヒーを注ぎに行った時、自分の犬のトビーのことを話し出す。そして、リスを獲る罠に脚を挟まれてから、前のように歩けなくなったので、それを治して欲しいと頼む(1枚目の写真)。ジョシュアは、悪いと謝った上で〔彼は 常に相手に対し丁寧〕、「俺は、奇蹟の人じゃない」と断る。次のシーン。ジョシュアは仕事で中年の黒人女性リディアの家で家具の修理をしている。リディアは仕事ぶりを褒めた後で、「関節炎がひどくなって、手が冷たいの」と言って、自分の手が如何に冷たいか 触らせる。「何て、冷たいんだ」(2枚目の写真、矢印は重ねられたジョシュアの手)。「あなたの手、すごく暖かいのね」。しばらくして、リディアは、「変ね。手が痛くないわ。何したの?」と言い出す。「何も。絶対何もしてない」。「したのよ。これも、もう1つの奇蹟なの?」。「違うよ」。3つ目のシーン。ジョシュアは、病院にいる母親を訪ねる。ジョシュアは「今日は。ご一緒してもいい〔Hello there. Would you like some company〕?」と、母親に話しかける(3枚目の写真)。母親は、完全な痴呆症で、自分の息子を認識できないので、こうした言葉を使ったのだ。リディアの奇蹟はもう起きているが、最初の犬のトビーと、3番目の母親は、映画の最後に奇蹟が起きる。
  
  
  

翌日の夕方。ルークの母は、服装選びに余念がない。気分はもう デートだ。ルークに、「どう思う?」と意見を求める(1枚目の写真)。「あんまり」。どうでもいいといった雰囲気。「それはどうも」。「僕の意見 聞きたくないなら、訊かないでよ」。「どこかおかしい?」。「変わった裁断だね。お尻が大きくみえる。でも、太って見えないよ」。「赤いドレスにする?」。その時、チャイムが鳴る。着替えている時間がないので、「変じゃないわよね?」と改めて訊く。「素敵だよ。ホント」(2枚目の写真)。「ホントにホント?」。「ホントにホント」。予定より早いので、化粧をしながら「いったいどうなってるの?」と言うと、「彼、躍起なんだ」。「嬉しいこと言ってくれるわね」。そして、玄関まで走っていくと、そこに現れたのは、全米放送の女性レポーターだった。母は、TVで知っている顔なのでびっくりするが、ジョシュアでなかったのでがっかりし、話を聞きたいというのを断る。ちょうどその時、ジョシュアが現れる。そして、家に入り、レポーターの目の前でドアをバタンと閉める。その後、2人は、母の希望でボーリング場に出かけるが、そこで、またレポーターに会い、しつこくインタビューを迫られる。その時、ジョシュアの携帯に病院から電話が入り、母親が発作を起こしたので、すぐ来て欲しいと言われる。
  
  

ルークの母が帰宅すると、息子から、「で、どうだった?」と尋ねられる。「そうね。レポーターと夕食をとったわ」。「デートはどうなったの?」。「人生には、邪魔がつきもの」。ルークは、ゲームをしていた手をやすめると(1枚目の写真)、母の近くに寄って行き、「彼、好きなんでしょ?」と訊く。「ええ。好きよ」。ルークは「僕もだ」と言う。命を救われたことと、母の再婚を許すこととはリンクしない。ここで、ルークが賛成してくれたことは、母にとって2つ目のプレゼントだ〔最初のプレゼントは、もちろん ルークが生き返ったこと〕
  
  

ジョシュアが病院に急行すると、母は昏睡状態になっていた。友人の医師からは、「君のお母さんの脳の腫脹は深刻だ。唯一の緩和処置は手術しかない」と言われる。「分かった。同意書でも何でもサインするよ」。「すごく高額な処置なんだ」(1枚目の写真)〔アメリカの医療費はバカ高い〕。「金なら、何とかする」。「そうか、そうだな。ただ、知っておいて欲しいんだが… 保証はないんだ。手術をしても、昏睡状態は治らないかもしれない」。ジョシュアは、手術費用を捻出するため、高額の謝礼がオファーされている全米放送のインタビューを受けることを決意する。その場合、ルーク母子の出演が必須となる。そこでジョシュアは、町で唯一の飲食店にルークの母を呼び出して、正直に打ち明ける。「母は、手術が必要なんだ」。「私に何かできることは?」。「インタビューに同意したんだが、彼女は、君と、俺と、ルークの3人に出て欲しがってる」(2枚目の写真)。「もちろんいいわ。必要なら何でも〔whatever it takes〕」。実に誠意のこもった返事だ。「私にしてくれたことに比べたら何でもないもの」。
  
  

翌朝、早く起こされたルークは不機嫌だ。「起きてちょうだい。インタビューを受けないと」(1枚目の写真)。「『奇蹟の少年』は、もう うんざりだ」。「全米放送よ。いいこと、選ぶ権利はないの。みんな下で待ってるわ」。「僕、有名になる?」。「きっとね。さあ、服を着なさい」。「まだ、眠いよ」。1階には4人のスタッフとともに大量の機材が運び込まれている。コメンテーターのナカトミ医師も一緒だ。レポーターの化粧が済むと、いよいよインタビューが開始される(2枚目の写真)。ルークの家でのインタビューが終わると、次は、ジョシュアのインタビュー。スタッフ一同は、ジョシュアが住んでいる「元・教会」に到着する。「元」といっても、外観は教会と変わらない。レポーター:「信じられない。ここに住んでるの?」。レポーターが拘るのは、“教会に住む男が奇蹟を起こした” という話は絵になるからだ。インタビューが始まる。「ジョシュ、癒しの力には、いつから気付いてたの?」。これは、全くの予想外の質問だった。「俺は… そんなこと言ってない」。「絶対?」。「絶対だ。君たちが言ったんだ」。「君たちって誰?」。「マスコミの連中さ」。「ベサニーの住民もでしょ。それとも、メディアが共謀してるって?」。「もちろん違う。共謀じゃなくて誤解だよ」。「誤解って、何を?」。「奇蹟について」。「じゃあ、奇蹟だって信じてるのね?」。「そんなこと言ってない。君たちが言ったんだ」。「私が?」。「そうじゃない。マスコミのみんなだ」。「迫害されたと思ってる?」。「迫害? まさか。俺が言いたいのは、何かが起きて、それを、マスコミは奇蹟と呼び、この町のみんなもそう呼んだ。だけど、俺は違う」。「じゃあ、新たな救世主だと言ったことはないのね?」。「もちろん」。「ジョシュ、どうして教会に住んでるの?」。「前は教会だったけど、今はそうじゃない。俺の家だ」。「私には、教会みたいに見えるわ」。「教会だったんだ。それから、閉鎖か、俗用化か何だかされて、俺の家になったんだ」。「あなた、ある種のメサコン〔救済者になることを運命づけられているという信念に囚われた人〕なの?」。この言葉にジョシュアは激怒する。そして、「ここから出ていけ」と言ってカメラに背を向ける。「インタビューは まだ終わってないわ」。「いいや終わった」。「まだ、質問に答えてないでしょ」。「何て言わせたいんだ?! 俺が復活した神だとでも? 友だちを楽しませようと水の上を歩いたり、ウォルマートで買うより安いから水をワインに変えるとでも?」。「そう信じてるの?」。頭にきたジョシュアは、TVカメラのレンズを手で隠し、「切れ!」と怒鳴る。「インタビューは終わってない」。「何が望みなんだ?」。「真実よ」。「俺を侮辱するな。出てけ! 今すぐ出て行け!」。追い出されたレポーターがニヤリと笑うところが気持ち悪い。
  
  
  

いよいよ全米放送でインタビューの様子が放映される。町で唯一のバー兼飲食店は、盛り上がっている。最初は、ジョシュアの談話からスタート。「フライマン湖で魚を釣ってたら、子供たちが叫んでるのが聞こえた。最初は、遊んでるのかと思ったが、すぐに、とんでもないことが起きたんだと分かった」。その後、レポーターが出てきて、地元ニュースと同じように事故の経過を説明する。次に、どうやって見つけ出したのかは分からないが、黒人女性リディアが映り、手を握られてから関節炎が治ったと話す。そして、ルーク母子へのインタビュー。「科学者や医者や宗教界から、ベサニーで起きたことについて異論が出されていますが、こうした懐疑の声をどう思いますか?」。「私には、宗教や医学のことは分かりません。私は母親です。ルークが生還してくれたことは、私にとっては奇跡です」(1枚目の写真)。その次に、レポーターは著名な医師としてナカトミ博士へのインタビューに入る。博士は、ルークの「死」を潜水反射〔低酸素状態で生命維持に必要な臓器に血流が確保される生理的反応〕の状態だったと説明し、体温が元に戻ったことで脳が覚醒したのであって、「奇蹟」ではないと断じる(2枚目の写真)。そして、いよいよ教会でのインタビュー棄権へと移る。画面は、いきなり、「ここから出ていけ」から始まる。そして、その後の怒りの発言だけを流す。発言の一部だけを取り上げる典型的な「発言捏造」だ(3枚目の写真)。4枚目の写真は、いつもは穏やかなジョシュアが 激怒する様子を見ているルーク母子。ジョシュアの母親の入院先の病院では、昏睡状態の母親にTVを見せていたが、心電図が急に平坦になり、コード・ブルー(緊急蘇生)の体勢に入る。
  
  
  
  

番組が終わり、ルークは、「で… 僕は死んだの、死ななかったの?」と訊く(1枚目の写真)。「ちゃんと生きてるでしょ。奇蹟だったかどうかは分からない」。「じゃあ、もう有名じゃなくなるね」。「有名になるなんて、もうこりごり」。「僕もだよ。驚異の不死少年なんてうんざりだ。どうして、あんなに怒ったの? あんな人じゃないのに」(2枚目の写真)。「分からないわ」。翌日の町の新聞の一面の見出しは、「救世主から、のけ者に〔FROM MESSAIAH TO PARIAH〕」。韻を踏んだつもりだろうが、随分ひどい扱いだ。病院のベッドの脇に座り、一目見て新聞を投げ出すジョシュア。すると、母親の手が動き、目が開く。そして、「ばかばかしい〔Ridiculous〕」と一言。しばらくして、「あのインタビュー、どういうつもりだったの?」と普通に話す。それまで昏睡状態で、かつ、それ以前は重度の痴呆症だったにもかかわらず、TVの内容を覚えていて、それに対して論理的な意見を述べたのだ。驚いたジョシュアが、「ママ?」と声をかけると、「誰だと思ってるの?」とぴしゃり。そう言いながら、電動ベッドを操作して上半身を起こす。「幽霊かい?」。「だけど、こんなことあり得ない」。「もう1つの奇蹟じゃないの?」〔最後の言葉は、母が、かつての自分は「昏睡状態の痴呆症患者」だったと認識していることを意味する。しかし、それはあり得ない。この言葉は、第三者に言わせるべきだった〕。茫然として、「まさか」としか言えない息子に向かい、母は、さらに、「番組見てなかったの? あんた、どうみても『奇蹟の人』じゃなかったわね」と続ける。「ホントだよ」。「お腹が空いた。食事担当は誰なの?」。それまでに、母の声を聞いて、女医と看護婦が驚いてやって来ていた。「ステーキが食べたいわ。いいえ、ピザよ。大きくて、ペパロニののったやつ」。女医は「何してるの? 早くピザ持ってきて」と看護婦に指示する(3枚目の写真、矢印は元気になった母)。これは、ジョシュアにとっては 何よりの幸せだったろう。ニューヨークに戻ったレポーターはディレクターから、「有名人たたき」番組への配置転換を命じられる。昨夜の番組が信仰を物笑いの種にしたことで不評を買ったからだ〔いい気味〕
  
  
  

ジョシュアは、ルークの家の前で、どう言い訳しようかと練習しながら悩んでいる。それに気付いたルークは、部屋の窓を開けて、「家に入るの、入らないの?」と声をかける。「決心がつかないんだ」。「ついてると思うけど」(1枚目の写真)。「君のお母さんが 会いたがってるかどうか分からない」。「やってみるしかないよ」。その言葉に促され、ジョシュアが玄関に行ってノックしようとすると、その前にドアが開く。母は待っていたのだ。ジョシュアは、早口でインタビューの弁解を始める。そして、“会いたくも話したくもないないだろうと思っているんではないか” という不安を口にする。「あなたは、今や、アメリカ中で最も不人気な人よね。ニセの救世主呼ばわりされて」。「君を巻き込んで済まなかった。申し訳ない」「俺は、君と話したい。いろんなことを。何とか やり直し できるかな?」。母は、「ええ」と言ってジョシュアに熱い口付けをする。「私に夕食をおごって。空腹なの」。ドアを開けると、そこには笑顔のルークが立っていた。キスを見られたかと、どぎまぎした母、「今、夕食の話をしてたの。ピザとか… 一緒にピザ食べに行く?」とごまかす(2枚目の写真)。ルークは、ジョシュアに、「会えてよかった〔It's good to see you〕」と声をかける。「俺もだよ」。ルークは前に出てくると、「僕、宿題がある。ここにいなくちゃ」(3枚目の写真)「だから、2人で行ったら」と2人の恋路を邪魔しないように気を使う。ジョシュア:「少し持って帰るよ」。「それいいね」。これなら、母が再婚しても、100%円満にやっていける。
  
  
  

ルーサーの犬トビーが家を出て行く映像が一瞬流れる。次に、ジョシュアとルークの母は、走る車の中で 仲良く話し合っている。結婚を前提とした会話だ。その時、目の前に犬の姿が。急ブレーキをかけるが、犬の悲鳴が聞こえる。車を一周させて、衝突した物をヘッドライトで照らし、車から降りる(1枚目の写真、矢印はトビー)。「トビーだ。ルーサーの犬だ、どうしよう」と、頭を抱えるジョシュア。ルークの母は犬に触り、「死んでるわ」と言う。「どうするの?」。「ルーサーに言わなくちゃ。運んで行こう」。そう言うと、ジョシュアは「ごめんよ、トビー」と犬に触れる。トビーは生き返ると(2枚目の写真、矢印はトビー)、ジョシュアをじっと見て、元気に走り去った。やはり、ジョシュアは「奇蹟の癒し手」だった。「死んでたわ」。「この話は、誰にも言わないでおこう。いいね?」。「でも…」。「いいや、誰にもだ。頼む」〔母は、ルークに打ち明けかったのだろう〕。「いいわ」。
  
  

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